目次
1. 競技レベルの高い場所でスイングスピードは必要か?
競技レベルの高い場所で野球をするにはバットスイングスピードの速さが必要か?
野球選手によって“バットスイングスピードを速くすることが必要だ!”と考えて“そのためには体をデカくする!”固定観念を持っているような風潮がありますが、改めて、本当にスイングスピードが速い選手が競技レベルの高い場所で野球を続けられているのだろうか?とふと素朴な疑問が湧くわけです。そこで、大学野球選手を対象にバットスイングスピードを計測して、その後の進路について調査した結果を紹介します。計測方法は図Aになります。
某大学野球チームのフィジカルチェックをした結果を参考にして、その後の選手の進路について調べてみました。結果としては、見てのとおり、95名の部員の中で、バットスイングスピードの上位9名中8名がプロ野球、社会人野球、クラブチームなど大学卒業後も硬式野球を続けている結果となっております(図B)。
もちろん、バットスイングスピードだけではなく、バッティングではバットをボールに当てる能力や、その他にも走力、投力も必要になりますので、一概にバットスイングスピードだけ優れているわけではないですが、この能力の高い者が、その後上位レベルにて硬式野球を続けるということは、バットスイングスピードの速さが競技レベルの高い場所で硬式野球を続けるためには必要な要素であることがわかます。そして、こういったデータがあると、大学レベル以上の野球現場ではどの程度スイングスピーとが必要かの参考になりますね!こちらの結果は以下の研究論文に掲載されております。
笠原政志ほか:大学野球選手のバットスイングスピードに影響を及ぼす因子、Strength & conditioning journal : 日本ストレングス&コンディショニング協会機関誌 19(6), 14-18, 2012-07
ちなみに、プロ野球での1軍選手となるとスイングスピードが150km /hを超えることになるようです。
2. バットスイングスピード向上のために必要なのは体重増加ではなく、中身が大切!
“○○選手が増量で100kg到達”なんて記事があり、野球選手は体がデカイ!という印象を強く与えていることから、“野球がうまくなるためには増量”という印象を与えていますが、本当にそうなのでしょうか?しかしながら本当に大切なのは、体重だけではなく、その中身なのです。
図Aは除脂肪体重とバットスイングスピードの関係について示したグラフになります。除脂肪体重とは、体重から体脂肪量の除いた身体の重さの事を示しており、いわゆる筋量の1つの目安と考えられています。
ご覧のように除脂肪体重が高値を示している方が、バットスイングスピードが速くなっていることがわかります。グラフの中に“r=○○”という表現があると思いますが、こちらは、X軸とY軸との関係性がどうであるかを示す結果を示しています。この値が1.00に近いほど、X軸とY軸との関係は深いということを意味します。つまり、除脂肪体重とバットスイングスピードとの関係を示すr値が1.00に近いため、除脂肪体重が多いほどバットスイングスピードが速いという関係が強いと言えることになります。なお、この結果は大学野球選手を対象とした実験結果を示しているもので、バットは84㎝、910gの同一条件の物を使用しております。
つまり、図Bのようにただ増量したのではなく、その中身が大切なのです。
3. 除脂肪体重の増減はバットスイングスピードに影響を与える
高校野球選手を対象に10月にフィジカルチェックを実施し、11月からフィジカルトレーニングを4ヵ月間続けて行った後、フィジカルチェックを行いました。はたして、本当にスイングスピードは向上するのでしょうか?これについて追跡調査をした結果を紹介します。なお、このトレーニング結果から除脂肪体重(体重から脂肪量を除いた体重)が1㎏以上増加した群と除脂肪体重の増加が1㎏未満だった群に分けて、バットスイングスピードの変化について比較してみると
結果は除脂肪体重が1㎏以上増加した群は121.2㎞/hから125.1㎞/hにバットスイングスピードが明らかに増加したのに対し、1㎏未満群は117.9㎞/hから119.4㎞/hにバットスイングスピードの増加を示したが明らかな差は見られませんでした。つまり、除脂肪体重の増加がバットスイングスピード向上に大きく貢献するものであることを示す結果になっています(図A)。
この結果を受けて、今回調査した高校野球チームの秋季の練習試合中のホームラン数と春季練習試合中のホームラン数を比較してみると、表1のように秋季では23試合中、ホームラン数が「0本」であったのに対して、春季では28試合中、「6本」に増えました。そして、このホームランを打った選手5名の秋季と春季のバットスイングスピードの変化を比べてみると127.8±12.9㎞/hから134.0±9.0㎞/hに向上しています(図B)。
さらに、縦断的に除脂肪体重とバットスイングスピード計測して比較をしてみると、同じ練習環境の中でA選手は除脂肪体重の増加によって、バットスイングスピードも向上しているのに対して、B選手は除脂肪体重が低下しており、バットスイングスピードも低下しております(図C)。
もちろんそれ以外の要素も考えられますが、同じ練習環境の中で除脂肪体重の増減が違うとなると、継続的に身体組成(体重、体脂肪率など)を計測して行くと、除脂肪体重が少なからずバットスイングスピードに影響えていることをいち早くキャッチすることができます。