投球障害の発症には様々な原因が関与していますが、その一つとして挙げられているのが「肩甲骨の動き」です。
最新のシステマティックレビューでも肩甲骨の動作異常がある選手は障害発生率が46%高まると報告されていることから、特に注目すべきポイントであることが分かっています。今回はその評価方法を解説していきます。
目次
1. 肩甲骨の評価とは?
肩甲骨の評価方法は様々な種類があり、安静時の肩甲骨位置を評価するものから、腕を上に挙げた姿勢での評価を行うもの、さらにはレントゲンで肩甲骨位置を撮影するものや特殊な動作解析装置を用いて測定する方法など、様々な方法による検討が行われています。
それらを区別するには、まずは倫理的に簡便に行うことが出来るか?というポイントで分類します。もちろん、放射線被曝があるレントゲンを用いた方法など身体に侵襲が加わる方法は難しいですよね。そのため、日々の臨床やスポーツ現場で行うには視覚的に評価することが出来る方法か肩甲骨位置をメジャーで測定する方法などが用いられます。
次に、安静時の測定を行うのか、腕を動かしている時の測定を行うのか?という観点で分類してみます。これは測定の目的により異なりますが、野球を対象とする場合は腕を動かしている状態での評価が重要です。
最後に、負荷をかけて評価するのか否か?によって分類します。これまで報告されている評価方法では重錘を用いて評価する方法と無負荷の状態で評価する方法がありますが、これも野球を対象とした場合は負荷をかけた状態で評価することが望ましいのは想像できます。
これらの条件から、ある程度評価の信頼性・妥当性が明らかになっているものを探していくと「Scapular Dyskinesis Test(SDT)」という評価が野球選手の肩甲骨評価に適していると考えられるので、今回はその評価方法を解説します。
2. SDTの方法
1.選手の背側からビデオ撮影する環境を整えます。そして、体重1㎏未満の選手は3ポンド、それ以上の選手は5ポンドの重錘を用意します。㎏での表記されている重錘が多いので、1.5㎏と2.5㎏の重錘を使い分けると良いですね。
2.選手は屈曲・外転動作を5往復ずつ行います。その際に挙上・下制にはそれぞれ3秒ずつ、一定のリズムで行うように指示します。
3.測定後、ビデオで選手の動画を確認し「左右の肩甲骨の動きのリズムに違いがないか?」「肩甲骨の内側縁が浮いてきていないか(Wingingが見られるか否か)?」と評価します。
4.明らかに異常がある選手や判断に迷う選手を異常群、明らかに左右差が見られない選手を正常群と評価していきます。
3. SDTの評価例
この動画は異常と判断された選手をピックアップしました。最初の選手は肩甲骨の動期のリズムに左右差が見られる選手、後半の選手は位置異常(Winging)が見られる選手の典型例です。
4. 前向き調査の結果
SDTを用いて高校野球選手を対象に前向き調査したところ、シーズンオフの時点で肩甲骨の動きに異常が見られた選手は半年間に投球時の痛みを訴える選手の割合が有意に多く、正常な選手と比較して4.29倍の確率で投球障害を発症することが明らかになりました。
このように、何らかの関係があることは判明しましたが、実は肩甲骨の動きがどのように投球障害に関与するかはまだ明らかになっていません。今後は科学的な研究によりその因果関係を明らかにすることが課題です。
5. まとめ
SDTの方法と前向き調査の結果をまとめました。まずはこの評価で選手の肩甲骨機能をスクリーニングしてみてはいかがでしょうか?
普段見慣れていないと難しい評価かもしれませんが、たくさんの選手を見ていると徐々に慣れてきます。一度トライしてみてください!