投球動作はステップ脚を軸とした回転運動によりボールリリースを迎えます。その際の筋発揮が不十分であると膝の横割れと呼ばれる不良な投球動作を示します(図1)。
図1:膝の横割れ
この回転運動はステップ脚股関節の屈曲・内転・内旋を主とした動作により構成されるため、股関節の機能は投球動作において非常に重要な役割があります。
今回はその機能の一つ「内転」機能に着目した評価と投球動作の関連を解説します。
目次
1. 内転筋力の測定方法
内転筋は太ももの内側に位置する筋肉です。投球時には図2に示すタイミングで骨盤回旋の主動作筋であることが明らかになっており、このような姿勢での筋発揮の良否を測定することが重要となります。
図2:フットコンタクト以降の骨盤回旋は内転筋群が主動作筋として働く
評価方法(図3)
①まず選手は立位で通常の投球動作と同様のステップ幅に足を広げます。
②臨床現場などでハンドヘルドダイナモメーターを用いることが出来る際にはそれを選手の膝内側部に設置し、股関節内転動作時の筋力を測定します。比較する際には、得られた値を体重で除した値を用います。
③測定機器がない場合は徒手的に抵抗を加えることで筋発揮の状態を評価していきます。
図3;内転筋の筋力測定方法
2. 筋発揮の良否のポイント
この姿勢での筋発揮の良否は骨盤の角度に依存します。
図4の左図に示すように骨盤を前傾位いわゆる「パワーポジション」で保持できている場合は良好な力発揮が可能ですが、右図に示したような骨盤が後傾した姿勢になっている場合は股関節の力を十分に発揮することが出来ません。
これは「下行性運動連鎖」の影響を受けるものであり、股関節内転と相性がいい姿勢が骨盤前傾位であることが良好な筋発揮の要因となります。すぐに違いが分かるので、現場で選手に骨盤姿勢と股関節の関連を体感してもらう方法として有用です。
図4:股関節内転筋発揮に関与する姿勢(左良好、右不良)
3. 股関節内転機能と投球動作の関連
この内転機能は投球動作中の骨盤回旋速度と関連があることが報告されています。図5は筋発揮が良好な選手と不良な選手の比較です。
上図に示す選手は内転筋力が強く、フットコンタクト以降に骨盤の回旋運動と体幹・上肢の動きが連動しています。
しかし、下図の選手は骨盤の回転運動が不十分であり、その代償動作として上肢に負担のかかる動きをしています。実際に、この数か月後に投球障害を発症した選手です。この傾向は統計学的にも明らかになっていることから、投球障害の予防やリハビリテーションにおいて、股関節内転機能に着目することは重要かもしれません。
4. まとめ
今回は股関節内転筋の筋機能評価の方法を解説しました。ポイントは「投球動作と類似した姿勢で評価を行うこと」です。骨盤の姿勢により力発揮が変わることを選手に体感してもらってから説明していくと、効果的ですよ。是非一度チェックしてみてください!