下記に続いて、今回は、筋力を実際の野球動作につなげるために大切な「瞬時発揮筋力(力の立ち上がり)」について紹介します。
目次
1. 瞬時発揮筋力
主な野球動作は「投げる」「打つ」といった回旋動作であるため、その動作を意識したトレーニングがよく実践されています。
しかし、野球における「投げる」「打つ」といった動作は一瞬のものであるため、よりスピードが求められます。
したがって、ただ野球動作を意識したトレーニングをすればよいわけではなく、同時に、よりスピードの中でも瞬時発揮筋力を意識したトレーニングを実施することも大切になります。
せっかくオフ期にフィジカルを鍛え上げたとしても、野球の素早い動作につなげられなければ意味がありません。
2. 瞬時に発揮するためのトレーニングが大切
図Aを見てください。選手Aと選手Bの最大筋力は同じです。しかし、選手Aが最大筋力に到達する時間を選手Bに当てはめてみると、選手Aの半分の筋力しか発揮していないことが分かります。つまり、選手Bは力があっても瞬時に出し切れていないということです。
選手を見ていて“筋力があるにもかかわらず、うまく発揮できていない”という印象を持ったことはないでしょうか。それが、瞬時に力を出せていない選手の特徴の一つです。
力を持つだけではなく、瞬時に発揮するかためのトレーニングが大切なのです。
3. 瞬時発揮筋力はいつ発揮されるのか
瞬時発揮筋力はどのような場面で発揮されるのでしょうか。
メディシンボールサイドスロー時の太もも(後ろ足)と腹斜筋(捻った側)の筋活動を筋電図で調べると、ボールを飛ばす方向とは逆側に体を捻る、いわゆる「タメ」をつくる一瞬に、太ももと腹斜筋の筋活動が瞬時に高くなることが分かります。
つまり、体幹回旋時でのタメをつくる際に筋力は瞬時に発揮されていることとなるため、瞬時発揮筋力を意識することは重要であることが分かると思います。
4. トレーニングによって瞬時発揮筋力が改善されるのかについての実験
トレーニングによって瞬時発揮筋力が改善されるのかについての実験があります。
重りを両手で頭上に持った姿勢から、足をサイドに踏み出すと同時に上体を捻りながら重りを腰元に下ろすという体幹回旋トレーニングを行い、トレーニング前後の太もも前側と腹斜筋の筋活動を調べました。
図B左側はトレーニング導入前の筋電図を示しており、回旋動作の切り返し時にも下肢と体幹の筋活動はほとんど生じていません。
一方、右側のトレーニング導入後の筋電図を見ると、動作の切り返し時に筋活動が大きくなっています。
さらに、ただ筋活動が大きいだけでなく、それが瞬時に発揮されていることも分かります。
したがって、回旋動作トレーニング時に瞬時発揮を意識したトレーニングを行うことによって、実際の野球におけるバットスイングや投球動作につながるわけです。